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東京高等裁判所 平成7年(行コ)156号 判決 1999年12月09日

第一五九号事件控訴人・第一五六号事件被控訴人

松谷清

(以下「一審原告」という。)

右訴訟代理人弁護士

浅野正久

伊藤みさ子

久保田治盈

中村順英

細沼早希子

三宅弘

右訴訟復代理人弁護士

長沢美智子

第一五九号事件被控訴人・第一五六号事件控訴人

静岡県知事 石川嘉延

(以下「一審被告」という。)

右訴訟代理人弁護士

石津廣司

右指定代理人

市川克次

山田昌明

古牧邦治

大桒高

松浦敏明

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  一審被告が平成元年一〇月一二日付けで一審原告に対してした静岡県公文書の開示に関する条例に基づく開示の請求に係る文書の一部を非開示とした処分のうち、原判決別表第二の番号(同判決別表上の表示は英数字。以下、同じ。)五ないし七、一六二、二〇三、二一一、二三五、二五八、二七六、二九二、三四一、四二四、四三八、五五五ないし五五七の支出に係る前渡資金出納簿の摘要欄を非開示とした部分、及び右各番号の支出に係る前渡資金支払計算書添付の支出証拠書を非開示とした部分をいずれも取り消す。

三  一審原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを一〇分し、その九を一審原告の、その余を一審被告の各負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  一審原告

(第一五六号事件関係)

控訴棄却

(第一五九号事件関係)

1 原判決中、一審原告敗訴部分を取り消す。

2 一審被告が平成元年「〇月一二日付けで一審原告に対してした静岡県公文書の開示に関する条例に基づく開示の請求に係る文書の一部を非開示とした処分のうち、左記部分を除く部分を取り消す。

(一) 原判決別表第一記載の支出に係る前渡資金出納簿の摘要欄を非開示とした部分

(二) 同表記載の支出に係る前渡資金支払計算書添付の支出証拠書を非開示とした部分

3 訴訟費用は、第一、二審とも一審被告の負担とする。

二  一審被告

(第一五六号事件関係)

1 原判決中、一審被告敗訴部分を取り消す。

2 一審原告の請求を棄却する。

3 訴訟費用は、第一、二審とも一審原告の負担とする。

(第一五九号事件関係)

控訴棄却

第二  事案の概要

事案の概要は、次のどおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第二に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決四二頁一〇行目の「前渡資金出納簿の」の次に「非開示部分の」を加える。)。

(当審における付加主張)

一  支出事由の記載の本件条例九条八号該当性に関する付加主張

(一審被告)

原判決別表第三記載の前渡資金出納簿及び支出証拠書の非開示部分は、これを開示することによって当該交際費支出に係る交際の相手方である個人の氏名又は法人等の名称が識別し得るものではないが、支出事由、すなわち、いかなる事由で交際費が支出されたのかが記載されている。そして、右支出事由が開示されることになれば、県が良好な協力関係、信頼関係を維持、形成すべく交際している関係者の中で、同一の事由に該当しているにもかかわらず、交際費が支出されなかった者等から、交際の内容、程度の差異を県ないし県知事等の自己に対する評価の差異等に結びつけて、不快、不信の念を抱く者が現れ、交際事務の目的や関係者との信頼関係が損なわれることになる。また、交際の内容は、本来、県知事等が、相手方と県等との関係を考慮し、その裁量によって決定すべき事柄であるが、右支出事由が一般公開されることになれば、前記のような事態の発生を避けるため、交際費の支出を形式的、画一的なものとせざるを得ないこととなりち交際事務の公正又は円滑な執行に支障が生ずることになる。

以上のとおり、前記非開示部分は、「渉外」等の事務である交際事務の「実施機関が行う事務事業に関する情報」であって、開示することによって、「当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの」、「関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの」、「当該事務事業又は将来の同種の事務事業の公正又は円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの」に当たり、本件条例九条八号に該当する。

(一審原告)

一審被告の主張は争う。支出事由の開示がされたからといって、一審被告が主張するようなおそれが生ずるものではないし、また、右のようなおそれは、非開示処分を正当化する事情には当たらない。

二 本件非開示部分のうち、交際の相手方を識別し得る部分の本件条例九条八号非該当性についての付加主張(一審原告)

右部分を本件条例九条八号該当を理由として非開示とすることが適法といえるためには、それが、<1>相手方の氏名等が外部に公表、披露されることがもともと予定されていないものであること、及び<2>公表、披露等が予定されていない相手方の氏名等の開示によって、交際の相手方が不信、不快の念を抱き、その結果、本件条例九条八号所定の支障が生ずるおそれがあることを、一審被告の側において、具体的に主張立証すべきものであるところ、本件において、右のような主張立証はされていない。この点を、各支出項目ごとに指摘すると次のとおりである。

1  懇談経費、接待経費

静岡県は、「情報公開の充実に関する取扱方針」によって、「会議、懇談等(食料費の支出を伴うもの)」への出席者の所属、職、氏名は、「公表を目的とした情報」として取り扱うことを明らかにした。このことは、静岡県自身が、会議、懇談への出席者の所属、職、氏名を公表しても、本件条例九条八号所定の支障が生ずるものではないことを自認したことを意味するのであり、したがって、交際費支出のうち、懇談経費、接待経費については、実質的に、その相手方等の公表、披露が予定されるものになったというべきであるから、非開示事由該当性は認められない。

2  御香料、玉串料

御香料や玉串料は、不特定多数の一般参列者が参加する葬儀等において提供されるものであるところ、葬儀等の開催の事実は、広く知られているのが通常であるし、これに県知事等が参列したことは、静岡県の広報や新聞報道で公表される場合も少なくない。そして、県知事等が葬儀等に参列する以上、一定額の御香料や玉串料が提供されるであろうことは、当然に予想し得るのであるから、結局、御香料や玉串料に関する支出は、実質的には、交際の相手方の氏名等の公表、披露が予定されたものといえる。また、原判決別表第二を検討すれば明らかなとおり、御香料、玉串料の支出金額は、五〇〇〇円及び一〇〇〇〇円がその大半を占めていて、極めて定額化されており、県との関係の濃淡、相手方の地位、県への貢献度等に配慮した裁量を働かせる余地はほとんどなく、しかも、公金から御香料、玉串料を支出する以上、支出の相手方は客観的に正当と認められる範囲に限られるべきなのであるから、誰に対して支出すべきかという点についても、裁量を働かせる余地はほとんどないものというべきである。そうすると、御香料、玉串料について、支出の可否や金額に関する裁量権に配慮する必要はないし、右のような御香料、玉串料支出の客観的性格に照らせば、交際の相手方の氏名等を開示することによって、その相手方や第三者が不快、不信の念を抱くおそれもないものというべきであるから、非開示事由該当性は認められない。

3  生花、供物生花

生花や供物生花は、不特定多数の一般参列者が参加する葬儀等において、これらの一般参列者の目に触れる形で供されるものであるから、交際の相手方の氏名等が、公表、披露されることがもともと予定されたものというべきである。生花や供物生花の金額までが公表されるものではないが、その金額が定額化されていることは、2項の御香料、玉串料の場合と同様であるから、同様の理由により、金額が公表されることによって交際事務に支障が生ずるおそれはなく、非開示事由該当性は認められない。

4  御見舞、御見舞果物、御見舞生花

これらの支出のうち、災害見舞(原判決別表第二の二八三番及び三八二番)については、静岡県が「県民だより」等を通じて、災害見舞をしたことを公表した例があることに照らし、交際の相手方の氏名等の公表、披露を予定したものというべきであり、また、そこまではいえないとしても、相手方を開示したとしても支障が生ずるものではないことは明らかである。また、病気見舞については、交際の相手方の氏名等を公開することにより、本件条例九条八号所定の支障が生ずることについて、個別・具体的な主張立証がない限り、非開示事由該当性は認められないものというべきである。

5  御餞別

御餞別についても、静岡県の広報や新聞等で、その支出の事実が公表される例がある上に、その支出金額は極めて定額化されているから、2項の御香料、玉串料と同様に、交際の相手方の氏名等を開示することによって支障が生ずるものとは考えられず、非開示事由該当性は認められない。

6  御祝儀、御祝、御祝生花

これらの支出は、公式公開の行事、式典等に県知事等が出席した際、祝儀として支出したものであると推認され、そうであれば、交際の相手方の氏名等が、公表、披露されることがもともと予定されたものというべきであるから、非開示事由該当性は認められない。

7  贈呈品、その他贈呈品、贈答品、その他贈答品

これらの支出については、静岡県が「県民だより」等を通じて、贈呈品を提供した事実を公表した例があることに照らし、その相手方等の公表、披露を予定したものという余地があり、また、このような贈呈品等提供の事実が公表されたからといって不快、不信を抱く者が現れるとも考えられないから、非開示事由該当性は認められない。

8  知事賞

知事賞については、静岡県が「県民だより」等を通じて、知事賞贈呈の事実を公表した例があり、また、県の「被表彰者名簿」は、公表すべきものとして取り扱われているから、交際の相手方の氏名等の公表、披露を予定した支出というべきであり、少なくとも、相手方等を公表しても支障が生ずるものではないから、非開示事由該当性は認められない。

9  賛助、その他(負担金)、その他

右各支出については、交際の相手方の氏名等を公表することによって支障が生ずることについて、個別的・具体的な主張立証がないから、非開示事由該当性は認められない。

10  なお、他の地方自治体における取扱例をみると、神奈川県においては、香典、不祝儀、祝儀、会費、賛助、記念品等、餞別に係る支出については、交際の相手方も開示し、見舞、懇談に関する支出のみ交際の相手方を開示しない取扱いがされており、沖縄県においては、香典、供花に関する支出については、交際の相手方も開示する取扱いがされており、青森県においては、香典、賛助金、会費に係る支出については、交際の相手方も開示し、祝儀、記念品、餞別、見舞、報償費(贈答品)に係る支出については、公式の場で授受される等、不特定多数の者がこれを知り得る状況で授受された場合には、交際の相手方も開示する取扱いがされている。これらの取扱例からみても、前記各支出に係る交際の相手方を開示しても、行政上の支障等が生ずるものではないことは明らかである。

(一審被告)

最高裁第一小法廷平成六年一月二七日判決(民集四八巻一号五三頁)は、県知事の交際事務には、懇談、慶弔、見舞、賛助、協賛、餞別等様々なものがあることを認めた上で、これらの支出に関する文書のうち、交際の相手方が識別され得るものは、相手方の氏名等が外部に公表、披露されることがもともと予定されているものなど、相手方の氏名等を公表することによって、県知事の交際事務に関する支障が生ずるおそれがあるとは認められないようなものを除き、非開示とすることができる旨を判示している。この判決は、県知事の交際事務の一般的性質に照らし、相手方を識別し得る文書は非開示とすることができる旨の判断を示したものであって、支出項目ごとに、交際事務に支障が生ずること等を個別・具体的に主張立証することは求めていないのであるから、一審原告の主張のうち、<2>の点(行政上の支障等について個別・具体的な主張立証を要求する部分)は、右最高裁判決に照らし、失当である。また、他の地方自治体における取扱例に関して主張する部分(一審原告の主張10)は、非開示事由に関する条文等の違いや、取扱時期の違いを無視した主張である。さらに、本件非開示部分に係る支出は、いずれも、交際の相手方の氏名等を公表、披露することがもともと予定されていたものということもできないし、その開示によって、行政上の支障等が生ずるおそれがないとはいえない。その理由は、次のとおりである。

1  懇談経費、接待経費

一審原告が主張する「情報公開の充実に関する取扱方針」は、平成九年一月二九日に、県総務部長通知として発せられたものであるが、食糧費支出の透明性を確保するため、同年三月一日以降の食糧費、会場借上料については、一定の周知期間を置いた上、相手方の理解、協力の下に、食糧費支出に係る会議、懇談等への出席者名を「公表を目的とした情報」として取り扱うこととしたものである。右取扱方針発出後も、知事交際費に係る懇談経費、接待経費の取扱いが変更されたわけではないのであるから、これらの支出が、公表、披露を予定したものに変わったわけではない。

2  御香料、玉串料

葬儀等が開催された事実が広く知られる場合があることは事実であるが、県知事等がこれに参列したことまでが公表されることはなく(そもそも、県知事等が参列する例はまれであり、通常は、県職員が県知事の代理として参列している。)、まして、御香料、玉串料を支払ったかどうかや、その金額が公表されることはないのであるから、これらの支出が、交際の相手方の氏名等を公表、披露することを予定したものということはできない。また、一審原告は、これらの金額は極めて定額化されていると主張するが、県との関係の濃淡等を考慮して、その金額が決定されていることは、原判決別表第二の記載からも明らかであるから、一審原告の主張は失当である。

3  生花、供物生花

県知事等が、葬儀等に生花、供物生花を提供した事実が右葬儀等の参列者に知られることになるのは事実であるが、これは、右参列者という限られた範囲の者にとどまる上に、その金額は公表されないし、公表すべきものでもないのであるから、これらの支出が、交際の相手方の氏名等を公表、披露することを予定したものということはできない。また、その金額が定額化されているから公表しても行政上の支障等が生じないとする点が失当であることは、2項において主張したとおりである。

4  御見舞、御見舞果物、御見舞生花

これらの支出のうちも災害見舞について公表した事実はない(一審原告が主張する例は、県知事が議会本会議において災害被害についてお見舞いの意を表する発言をしたというものにすぎず、見舞金等を支出した事実やその金額について公表した例は全くない。)。また、病気見舞については、その相手方にとって、公表を望まない事柄であることは明らかであり、一審原告の主張は失当である。

5  御餞別

御餞別について、特定の人間にこれを提供したことや、その金額を公表した事実は全くない。また、その金額が定額化されているから、行政上の支障が生じないとの主張が失当であることは、2項において主張したのと同様である。

6  御祝儀、御祝、御祝生花

御祝儀、御祝、御祝生花は、県政に関連する個人あるいは団体等が主催する懇談会、御祝いの会合等に県知事等が出席する際に贈ったものであり、一審原告が主張するような公式公開の行事、式典において贈ったものではない(公式公開の行事、式典において贈られる御祝儀等は、他の支出項目から支出されている。)から、これらが交際の相手方の氏名等を公表、披露することを予定した支出であるということはできない。

7  贈呈品、その他贈呈品、贈答品、その他贈答品

これらは、県知事等の上京時の土産、県への来訪者への土産、死没者への叙勲伝達時の供物、外国からの来訪者への記念品として贈られるものであるが、県知事の上京、県への来訪、叙勲伝達といった事実が報道されることはあっても、その際に贈答品等を提供したかどうかが公表されることはなく、まして、その金額が公表されることはない。したがって、これらの支出は、交際の相手方の氏名等の公表、披露を予定したものではない。

8  知事賞

交際費としての知事賞は、県政に関連する団体等が内輪の催しをする際に提供するものであり、県の公式行事等において提供されるものは、知事交際費ではなく、他の支出項目から支出されている。そして、右のような知事交際費としての知事賞については、これを提供した事実も、その金額も公表されることはない(一審原告が公表されたとしているのは、他の支出項目から支出されたものである。)から、これらの支出は、交際の相手方の氏名等の公表、披露を予定したものではない。

9  賛助、その他(負担金)、その他

これらの支出も、県政に関連する団体等が内輪の催しをする際に、賛助の趣旨で支出されたもの等であるから、交際の相手方の氏名等の公表、披露を予定したものではない。

三 一部開示についての付加主張

(一審原告)

本件条例一〇条は、「実施機関は、開示の請求に係る文書に前条各号のいずれかに該当する情報が記載されている部分(以下「非開示部分」という。)がある場合において、非開示部分とそれ以外の部分とを容易に、かつ、開示の請求の趣旨が損なわれない程度に分離することができるときは、同条の規定にかかわらず、当該非開示部分を除いて、公文書の開示をするものとする。」と規定している。したがって、本件非開示部分のうち、相手方を識別し得る情報を非開示とすることが適法であるとしても、それ以外の部分については一部開示をすべきであり、それをせずに全部非開示とするのは違法である。

(一審被告)

一審原告の主張は争う。

第三  当裁判所の判断

当裁判所は、一審原告の請求は、主文第二項に記載の限度で認容すべきであり、その余は棄却すべきであると判断する。その理由は、次のとおりである。

一  公文書開示請求権の意義及び非開示条項の解釈について

公文書開示請求権の意義及び非開示条項の解釈に関する判断は、次のとおり、付加、訂正するほかは、原判決六四頁三行目の冒頭から同六六頁四行目の末尾までと同一であるから、これを引用する。

1  原判決六四頁三行目の「県民」から同四行目の「本件」までを「国民が、様々な情報に接し、これを摂取する自由は、憲法二一条一項、国際人権B規約の趣旨・目的に沿うものであり、いわばその派生原理として導かれるものであり、「知る権利」も右の範囲にとどまる限りにおいては、その根拠を有するものであるが、積極的に、自己以外の文書の開示を求めることは、その範囲を超えるものであって、県民」に、同九行目の「これを」を「本件条例の制定の趣旨を考慮し、本件条例が」に各改める。

2  原判決六四頁末行の「しかるところ、」を次のとおり改める。

「証拠(乙第三一号証、第三二号証の一ないし七、第三三ないし第三五号証)及び弁論の全趣旨によれば、静岡県においては、昭和六一年一〇月に県庁内部に「情報公開検討委員会」を設け、昭和六二年九月、「静岡県における情報公開制度素案」を作成して公表し、さらに、外部の者も加えて情報公開懇話会を設立し、右素案を基に検討したこと、その結果は、昭和六三年三月に「提言」としてまとめられたこと、この「提言」においては、公文書の公開については「知る権利」という一般原則が一義的でないものの新しい権利として認められつつある理念であることを考慮するが、公文書の公開制度が関係者の権利義務関係を創設するものであって実定法上の権利として明確に位置づける必要があり、県民の意向を反映させる必要があることなどから、条例によって定めるべきであるとし、公開を原則としつつ、非公開事由を設けることとしていること、個人情報については、プライバシー権が実定法上は不確定であるので、「個人識別」を基準にし、「広く個人に関する情報」を非公開事由とし、また、行政運営、執行情報については、開示によって行政の公正ないし適正な執行を妨げることがあるため、「渉外」など実施機関が行う事務事業に関する情報であって、「開示することにより、当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの」、「関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの」、「当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの又は県の行政の公正若しくは円滑な運営に著しい支障が生ずることが明らかなもの」などを非公開事由としたことが認められる。そして、本件条例は、これらの検討結果を踏まえたものであり、」

二  本件非開示部分の本件条例九条八号該当性の有無について

本件非開示部分の本件条例九条八号該当性の有無に関する判断は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決六六頁六行目の冒頭から同八〇頁末行の末尾までと同一であるから、これを引用する。

1  原判決七一頁初行の末尾に、次のとおり加え、同二行目の「しかるところ、」を削る。

「そして、県知事等の交際事務は、県と関係者との間に良好な協力、信頼関係を形成、維持し、県における行政の円滑な執行を図ることを目的として、これら関係者を相手方として行う対外的な交渉事務であり、本件交際費が右の目的でもって支出されたことは前示のとおりであるところ、右の交際事務の内容については、県知事等が、県と相手方との関係、その相手方の地位等諸般の事情を考慮した上で、その裁量に基づいて決定することができる事項であるから、実施機関が本件公文書の開示、非開示の決定をするに当たっては、県と相手方との関係、その相手方の地位、交際費の支出の趣旨、及び非公開の基準が存する場合には、それに対する信頼(支出当時において非公開とされている場合には、相手方が非公開に寄せる信頼)等を考慮し、本件公文書を公開することによって、県知事等に認められた右の裁量権を侵すことがないように、<1>、<3>又は<4>の事由の有無を判断すべきであり、右判断が右の考慮の上でされた場合には、その処分(決定)には合理性があり、違法とすべきでないと解される。」

2  原判決七二頁七行目の「乙」の次に「第一四、」を、「第二九」の次に「、第三七」を、同行目の「号証」の次に「、証人木本陽三」を、同九行目の「支出に係る部分」の次に「のうち、番号五ないし七、一六二、二〇三、二一一、二三五、二五八、二七六、二九二、三四一、四二四、四三八、五五五ないし五五七の一六件を除くその余の部分」を各加え、同行目の「三八九件」を「三七三件」に改め、同七三頁九行目の「係るもの」の次に「のうち、番号五ないし七、一六二、二〇三、二一一、二三五、二五八、二七六、二九二、三四一、四二四、四三八、五五五ないし五五七の一六件を除くその余の部分」を加え、同行目の「三八九件」を「三七三件」に改め、同七四頁六行目の「(7)」から同九行目の「存在しないこと、」までを削り、同一〇行目の末尾に次のとおり加える。

「(なお、原判決別表第二の番号五ないし七、一六二、二〇三、二一一、二三五、二五八、二七六、二九二、三四一、四二四、四三八、五五五ないし五五七の一六件は、いずれも支出項目が「その他」に属するものであって、同表上は、前渡資金出納簿及び支出証拠書に、交際の相手方である個人名が記載されているものに分類されているが、〔証拠略〕によれば、これらの支出は、いずれも県知事等が出張先で臨時的、緊急的に支出が必要な場合のために、随行員に対して支出をしたもの(番号五五五ないし五五七は、その精算をしたもの)であり、その使途は懇談経費、訪問先への土産、祝儀であって、交際の相手方についての記載はないこと、それにもかかわらず、これらの支出が交際の相手方である個人名が記載されているものに分類されたのは、支出の相手方である県の公務員(前記随行員)の氏名を交際の相手方の氏名と誤って分類したことによるものであることが認められる。右の誤りを訂正した上で、非開示部分のうち、その記載自体から交際の相手方を識別し得るもの、及び他の情報を参照することによって識別可能となるものを分類し直した結果は、前示のとおりとなる。)」

3  原判決七五頁末行の「ある。」の次に「しかも、一般的には、交際費の具体的内容は公表しないのが相手方に対する社会的礼儀に沿うものである上、右の各交際費の支出当時において、交際の相手方が識別しうる文書は非公開とする取り扱いとしていた〔証拠略〕のであるから、それを前提として行動した相手方においては、予期に反して県知事等との交際の内容、程度が一般に明らかにされれば、県に対して不満、不快、不信の念を抱くことがあることも容易に推認しうるところである。」を加える。

4  原判決七七頁四行目の「予定されているもの」の次に「など、交際の相手方の氏名等を公表することによって、右のようなおそれがあるとは認められないもの」を、同五行目の「である」の次に、「(最高裁第一小法廷平成六年一月二七日判決・民集四八巻一号五三頁参照)」を、同末行の「自体」の次に「ばかり」を、同八〇頁九行目の「いるもの」の次に「等」を各加える。

5  交際の相手方を識別し得る部分の本件条例九条八号非該当性についての付加主張について

一審原告は、本件非開示部分のうち、交際の相手方を識別し得るものについて、支出項目別に、<1>右支出は、交際の相手方の氏名等の公表を予定したもの、あるいは、それと同視すべきものであるから非開示事由に該当しない、<2>交際の相手方の氏名等を公表することによって、行政上の支障が生ずることについて個別、具体的な主張立証が必要であるのに、それがされていないから非開示事由に該当しない旨の主張をしている。しかしながら、交際の相手方を識別し得るものについて、交際の相手方の氏名等を公表することによって行政上の支障が生ずる事情を個別、具体的に主張立証を要するものではないことは、前記説示に照らして明らかであるから、<2>の主張は採用することができない。また、<1>の点も、次のとおり、採用することができない。

(一) 懇談経費、接待経費

一審原告は、静岡県の「情報公開の充実に関する取扱方針」(〔証拠略〕)において、「会議、懇談等(食料費の支出を伴うもの)」への出席者の所属、職、氏名は、「公表を目的とした情報」として取り扱うこととされたことを根拠に、懇談経費、接待経費の支出は、交際の相手方の氏名等の公表を予定した情報に当たる旨の主張をする。しかしながら、同号証及び弁論の全趣旨によれば、右取扱方針は、平成九年一月二九日に、県総務部長通知として発せられたものであるが、その趣旨は、食糧費支出の透明性を確保するため、同年三月一日以降の食糧費、会場借上料については、一定の周知期間を置いた上、相手方の理解、協力の下に、食糧費支出に係る会議、懇談等への出席者名を「公表を目的とした情報」として取り扱うこととしたものであって、右取扱方針発出後も、前示の知事交際費に係る懇談経費、接待経費の取扱いが変更されたわけではないことが認められる。したがって、右取扱方針の対象となる情報は、県知事等の交際費とは性質の異なる支出に関するものである上に、本件処分当時(平成元年)とは時期的にも異なる時点の情報に関するものなのであるから、右取扱方針の存在をもって、懇談経費、接待経費が、交際の相手方の公表、披露を予定した支出となるものではないことは明らかである。

(二) 御香料、玉串料

〔証拠略〕によれば、御香料、玉串料は、県政に関連する者やその親族の葬儀に際し 県知事等の名義で支出するものであることが認められるところ、葬儀が開催された事実や、これに県知事等が列席したことが葬儀の列席者等の関係者に知られることがあることは認められるものの、県知事等は、常に葬儀に列席するわけではなく(前掲各証拠によれば、むしろ、県職員がその代理として列席するのが通常であることが認められる。)、また、御香料や玉串料を支出した事実やその金額は、現に公表されておらず、むしろ公表しないのが社会的礼儀に沿うものであると解される。そうすると、これらの支出が、交際の相手方の氏名等を公表、披露することを予定したものであるということはできない。なお、一審原告は、これらの支出は極めて定額化されているから、公表することによって行政上の支障等が生ずることは考えられない旨主張するが、前掲各証拠等、〔証拠略〕及び原判決別表第二の記載によれば、御香料、玉串料の額にいくつかのランクがあり、後記3の生花、供物の提供と相まって、県知事等の相手方に対するランク付けが明らかになるものであり、本件交際費の支出当時これらの支出の相手方は公表しないこととしていたのであるから、その信頼に反して、公表すれば、相手方等の関係者に不快の念を与え、交際の目的自体を損なうおそれがあることが認められる。したがって、一審原告の右主張を採用することはできない(同様の主張は、生花、供物生花、御餞別についてもされているが、同様に、失当である。)。

(三) 生花、供物生花

生花や供物生花は、県知事等が、葬儀のために提供するものであり、その性質上、これらを提供した事実が右葬儀等の参列者に知られることになることは明らかである。しかしながら、県知事等が、生花、供物生花を提供した事実を知り得る立場にあるのは、葬儀の参列者という限られた範囲の者にとどまる上に、その金額は現に公表されていないし、むしろ公表しないのが社会的礼儀に沿うものであると解される(生花や供物生花の内容によって、ある程度、その価額を推測し得る場合もあるとはいえ、具体的な金額まで推測し得るものとはいい難い。)。したがって、これらについても、交際の相手方の氏名等を公表、披露することを予定したものということはできないものというべきである。

(四) 御見舞、御見舞果物、御見舞生花

〔証拠略〕によれば、これらの支出は、災害見舞(原判決別表第二のうち、番号二八三番及び三八二番)、病気見舞(同表の支出項目に御見舞、御見舞果物、御見舞生花とあるもののうち、番号二八三番及び三八二番を除いたその余のもの)として支出されたものであることが認められる。一審原告は、これらの支出のうち、災害見舞は、交際の相手方の公表、披露を予定した支出であり、現に、これが公表された例があると主張しているが、右主張を認めるに足りる証拠はなく(〔証拠略〕によれば、昭和六三年度の静岡県議会定例会議の席上、県知事が中国浙江省において発生した災害被害に対して見舞の念を表明した事実は認められるものの、これに対して見舞を贈呈した事実や、その金額が公表されたことまで認めるに足りる証拠はなく、その余の災害見舞についても、その相手方や支出金額が公表された事実を認めるに足りる証拠はない。)、採用することはできない。また、病気見舞は、支出の相手方や支出金額の公表、披露を予定する性質のものではないことは明らかである。

(五) 御餞別

〔証拠略〕によれば、御餞別は、県政に関連する者が転勤する際や、県職員が退職する際等に、県知事などが贈呈するものであることが認められるところ、これらの支出について、支出の事実やその相手方、支出金額が公表されていることを認めるに足りる証拠はないし、支出の性質上、公表、披露することが予定されているものではないことも明らかである。

(六) 御祝儀、御祝、御祝生花

〔証拠略〕によれば、御祝儀、御祝、御祝生花は、県政に関連する個人あるいは団体等が主催する懇談会、御祝いの会合等に県知事等が出席する際に贈ったものであること、県の公式公開の行事、式典において贈呈される御祝儀、御祝、御祝生花は、交際費以外の支出科目から支出されることが認められる。そして、知事交際費等から支出される御祝儀、御祝、御祝生花について、支出の事実やその相手方、支出金額が公表、披露されていることを認めるに足りる証拠はないから(一審原告の主張は、これらの支出が、県の公式公開の行事、式典における贈呈品に関するものであることを前提とするものであるから、その前提を欠いている。)、これらの支出が、交際の相手方の氏名等の公表、披露を予定した支出であるということはできない。

(七) 贈呈品、その他贈呈品、贈答品、その他贈答品

〔証拠略〕によれば、これらは、県知事等の上京時の土産、県への来訪者への土産、死没者への叙勲伝達時の供物、外国からの来訪者への記念品として贈られるものであることが認められる。そして、右証拠等によれば、これらの支出に関し、県知事の上京、県への来訪者の存在、叙勲伝達といった事実が報道されることがあり得ることは認められるものの、その際に贈答品等を提供した事実や、その金額が公表されることを認めるに足りる証拠はない。したがって、これらの支出が、交際の相手方の氏名等の公表、披露を予定したものということはできない。

(八) 知事賞

〔証拠略〕によれば、交際費から支出される知事賞は、県政に関連する団体等が内輪の催しをする際に提供するものであり、県の公式行事等において提供されるものは、知事交際費ではなく、他の支出科目から支出されることが認められる。そして、右のような知事交際費としての知事賞について、これを提供した事実や、その相手方、支出金額が公表された事実を認めるに足りる証拠はない(一審原告の主張は、県の公式行事等において提供される知事賞を前提としたものであるから、その前提を欠いている。)から、これらの支出が、交際の相手方の氏名等の公表、披露を予定したものということはできない。

(九) 賛助、その他(負担金)、その他

〔証拠略〕によれば、これらの支出は、県政に関連する団体等が内輪の催しをする際に、賛助の趣旨で支出されたもの等であることが認められ、支出の事実やその相手方、支出金額が公表されることを認めるに足りる証拠はないから、これらの支出が、交際の相手方の氏名等の公表、披露を予定したものということはできない。

(一〇) 以上の次第であって、前掲各支出が、相手方等の公表を予定したものであるとする一審原告の主張は、すべて失当であるというべきであり、一審被告が、前記各文書を本県条例九条八号に当たるとして非公開にしたことには、県知事等に認められた本判決前示二1の裁量権を考慮すると、合理的な根拠があり、同号に違反するものではない。

なお、一審原告は、神奈川県、沖縄県、青森県の知事交際費の取扱例に照らし、右各支出の相手方を公表しても、行政上の支障等が生ずるものではないことは明らかである旨主張するが、これらは、他の地方自治体の取扱例であって、直ちに、静岡県について適用し得るものではない上に、一審原告の主張によっても、右各地方自治体ごとに、具体的な取扱方法は異なっていて、特定の支出項目については、その相手方を公開しても行政上の支障が生ずるものではないといった統一的な取扱いが確立しているものとはいい難いこと、右各取扱例は、本件処分とは異なった時点におけるものであること等を考慮すると、右各地法自治体における取扱例を考慮しても、前記判断を左右するものではない。

6  一部開示に関する付加主張について

一審原告は、本件条例一〇条は、開示の請求に係る文書に非開示とすべき部分がある場合でも、その部分を除いた部分を一部開示すべきことを定めているのであるから、仮に、本件非開示部分のうち、交際の相手方を識別し得る部分を非開示とすることが適法であるとしても、これを理由として前渡資金出納簿の摘要欄部分及び支出証拠書の全部を非開示とすることは許されず、相手方を識別し得る記載のある部分のみを非開示とし、その余は開示すべきものであると主張する。

ところで、前示のとおり、本件条例一〇条は、開示の請求に係る文書に非開示とすべき部分がある場合においては、非開示部分とそれ以外の部分とを「容易に」、かつ、「開示の請求の趣旨が損なわれない程度に分離することができるときは」一部開示をすべき旨を定めている。そこで、右条項の趣旨に適合する形で一部開示が可能かどうかを判断するに、前示の争いのない事実及び〔証拠略〕によれば、前渡資金出納簿の摘要欄は、交際の相手方に関する記載と、支出事由に関する記載、及び購入・接待事業者名等に関する記載が一体となっているものであり、かつ、摘要欄は狭いため、一体として記載された右各記載事項の中で、交際の相手方に関する記載部分のみを抹消するには、個々の文書ごとに開示の趣旨が損なわれない程度に塗りつぶし等をすることを要し、多大な労力を要し、困難を伴うことが認められ、この開示が迅速にされることが求められることも考慮すると、非開示部分とそれ以外の部分を容易に分離することができるとはいえず、一部開示の要件に該当しないものというべきである。また、前示の争いのない事実等及び〔証拠略〕によれば、支出証拠書は、各支出の証憑となるもので、請求書、領収書類等支出先の作成した書類、支出の性質上支出先から徴することができない場合は担当職員が作成した支払証明書であって、それぞれ支出年月日、支出金額とともに、その余白又は「但し書」部分に「交際の相手方」「交際費の支出事由」等が記載されることもあるが、交際の相手方の記載の有無、記載場所、支出事由との一体記載の有無などについて統一された取扱がされているものでなく、その分離には、個々の文書ごとに開示の請求の趣旨が損なわれない程度に塗りつぶし等をすることを要し、多大な労力を要し、困難を伴うことが認められ、この開示が迅速にされることが求められることも考慮すると、右各文書は、それぞれが各支出の証憑としての効果を発揮すべき一個の文書であって、「相手方」記載部分のみを「容易に分離する」ことができるものとは認められない。

7  本件非開示部分のうち、交際の相手方を識別し得る記載が存しないものに関する本件条例九条八号該当性の有無について

本件非開示部分のうち、交際の相手方が識別し得る記載が存しないものは、前示のとおりである(その内容は、原審において、この点を一審被告が自認していた一七件、及び当審における証拠調によって、この点が明らかにされた一六件の合計三三件である。)。

これらのうち、原判決別表第二の番号五ないし七、一六二、二〇三、二一一、二三五、二五八、二七六、二九二、三四一、四二四、四三八、五五五ないし五五七の一六件については、本件条例九条八号に該当性することについて特段の主張立証はされていないから、右一六件について、同号該当を理由に非開示とすべき理由はないものといわざるを得ない。

他方、右一六件を除く原判決別表第三の一七件については、一審被告は、支出事由の記載を開示することにより県知事等の交際事務に支障が生ずる等の非開示事由が存するとの主張をしている(一審被告の当審における付加主張)ところ、前示の争いのない事実及び〔証拠略〕によれば、支出事由には、贈呈又は懇談の目的、理由等がある程度具体的に記載されており、その余の記載とあいまって県知事等の交際相手方又はそのランク付けが推測し得るものであること、当時の一審被告の取扱いとしてこれらの文書が非公開とされており、その交際の相手方も公開を予測しないものであったことが認められる。右認定の事実にこれらの支出科目である「贈呈品〕「御見舞」等の具体的内容は通常は公表しないのが社会的礼儀に沿うものであると解されることを考慮すると、これらの記載が公開されることになれば、県が良好な協力関係、信頼関係を維持、形成すべく交際している関係者の中で、同一の事由に該当しているにもかかわらず、交際費が支出されなかった者又は同様な交際事由が存するのに支出の額を異にする者等の中から、不快、不信の念を抱く者が現れ、交際事務の目的や関係者との信頼関係が損なわれるおそれがあり、また、このような事態を避けようとすれば、交際費の支出を形式的、画一的なものとせざるを得ず、本来、県知事等が、相手方と県等との関係を考慮し、その裁量によって決定すべき交際の内容について、少なからぬ制約が生じ、その公正、円滑な執行に支障が生ずるおそれがあることは、前示のとおりである。

以上によると、右支出事由に関する記載部分は、「渉外」等の事務である交際事務の「実施機関が行う事務事業に関する情報」であって、開示することによって、「当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの」、「関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの」、「当該事務事業又は将来の同種の事務事業の公正又は円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの」に当たり、一審被告が、前記各文書を本県条例九条八号に当たるとして非公開にしたことには、県知事等に認められた本判決前示二1の裁量権を考慮すると、合理的な根拠があり、同号に違反するものではない。

そうすると、右一七件については、前渡資金出納簿の摘要欄及び支出証拠書(前示のとおり、支出事由に関する記載以外の記載もされているが、一体となった記載であり、分離困難というべきであるから、一部開示の要件には該当しない。)は、本件条例九条八号該当を理由に非開示とすることができるものというべきである。

8  以上によると、前渡資金出納簿の非開示部分(摘要欄)のうち、原判決別表第二の番号五ないし七、一六二、二〇三、二一一、二三五、二五八、二七六、二九二、三四一、四二四、四三八、五五五ないし五五七の一六件を除いた部分は、本件条例九条八号所定の非開示事由が存するものというべきであるから、その余の点について判断するまでもなく、これらを非開示とした処分は適法というべきであり、右の一六件については、本件条例九条八号該当以外に非開示とすべき事由は存しないから(同別表においては、個人名が識別できることを理由に本件条例九条二号にも該当する旨の記載があるが、前示のとおり、これは、実際の支出をした県知事等の随行員の氏名を交際の相手方の氏名と誤解したことによるものであることが認められるから、右別表の記載も誤りであり、他に非開示事由該当性に関する主張はない。)、本件処分中、右各部分を非開示とした部分は、その余の点について判断するまでもなく、違法として取消しを免れない。

三  本件非開示部分の本件条例九条二号、三号該当性の主張について

前渡資金出納簿の非開示部分と支出証拠書中、非開示処分が違法であるとする部分一六件については、本件条例九条二号、三号該当性の主張はなく、その余の非開示部分については、本件条例九条八号に該当し、本件条例九条二号、三号該当性に判断するまでもなく、適法であることは、前示のとおりであるから、本件において、本件非開示部分の本件条例九条二号、三号該当性の主張について判断する必要がない。

四  以上の次第であって、一審被告の本件決定のうち、原判決別表第二の番号五ないし七、一六二、二〇三、二一一、二三五、二五八、二七六、二九二、三四一、四二四、四三八、五五五ないし五五七の支出に係る前渡資金出納簿の摘要欄を非開示とした部分、及び右各番号の支出に係る前渡資金支払計算書添付の支出証拠書を非開示した部分は、違法として取消しを免れず、一審原告の請求は、右の限度で理由があり、認容されるべきであるが、それを超える部分は、理由がないものとして棄却されるべきであり、右と一部結論を異にする原判決を、主文第二項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条、六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 筧康生 裁判官 澤田英雄 信濃孝一)

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